何時もの時刻 何時もの場所


降り注ぐ日差しの中ゴロリと寝っ転がりながらほたるは気持ち良さ気に欠伸を一つ。
迫る睡魔に既に気持ち半分満たされていた
最近の天気は嬉しいくらい良好で、大概昼間はこうして至福の時を噛みしめている

それにこうして待って居れば、両腕に洗濯籠を抱えた愛しい少女が此方に向かって来るのだ




ひだまりの唄



ぱたぱたと小気味良い足音に耳を澄ませながらゆっくりと起き上がる

廊下の往来で寝っ転がってちゃ、山盛りの洗濯物で足場の見えない彼女が蹴躓いてしまう
上手く抱き止める事など造作も無いがそれはまた邪魔者がみんな出払った時にとっておこうと思う
彼女が一声、どんなに小さい悲鳴でもあげてしまえば、彼らは目敏く聞きつけてしまうから…

そわそわと…所在なさげに廊下の端へ視線を向けていると、やがて桜色の着物が視界に入った
捲った袖と丈の短い裾から白く滑らかな肌を惜しげもなく晒け出して、
細い両腕いっぱいに抱えた洗濯物と共にこちらへ向かう
彼女が一歩進む度に、きらきら輝く金糸がまるで風と戯れるように軽やかに揺れ動いた

「‥あ、また日向ぼっこですか。ほたるさん」

小鳥のさえずりよりも澄み渡った声に脳髄がピリリと痺れる様な感覚がする
屈託の無い無邪気な顔で、今日は絶好のお昼寝日和ですね、と微笑む姿が眩しくて‥僅かに眼を細めた

「ゆやも来る？暖かくて気持ちイイよ。」

「是非。お洗濯物干し終わったらご一緒させて下さい」

嬉しそうな‥本当に嬉しそうな柔らかい笑み
彼女の笑顔は飾り気も裏表も無い。その素直な表情がほたるは好きだった

小さな後ろ姿が消えると、先程までの昼寝モードは何処へやら
早く帰ってこないかと手持ちぶたさに足を伸ばし雲一つ無い綺麗な青空を仰ぐ


何時も気持ち良く晴れた空も、今日は各段に爽やかに感じた






約半時─彼にとってはとても長い長い時間─が経ち、再び軽やかな足音が此方に近付いてくる
端から見たら無表情な彼の瞳は、実は待ってましたと言わんばかりに輝いていた

両腕に茶の入った盆を乗せお待たせしましたと軽くお辞儀をしほたるの隣へ腰掛ける

「仕事終わったの？」

「はい。あとは今干した洗濯物を夕方入れるだけです」


額に張り付いた汗を拭う表情はとても達成感に満ちていた

楽しい？と聞かなくとも解るその顔に今度は自分も手伝ってみようと心内に決意する
そうすれば待っている間の暇つぶしにも、ゆやと長く一緒にいる口実にもなる

我ながら冴えているじゃないかと、普段寝かせっぱなしの頭が珍しく回転している気がした


何を話すわけでもなく、唯々ぼんやりと高い空を一緒に眺めて、そこから降り注ぐ日光に体を温めた

秋空にしては春の様に暖かな日差しを全身で受けて、瞼が徐々に重さを増す



もったいない


けど


とても眠りたい気分だ



ゆるゆると甘い睡魔に誘われる
何より、隣にある人肌の温かみが心地良さと不思議な安心感を伝えてくれた


もういっそゆやの膝を枕に寝てしまおうか…うん、そうしよう



無きに等しい僅かな抵抗もあっさり捨てて、ゆったりと、隣の柔らかな膝へ傾いた─その時、

ほたるは肩に柔らかな重みを感じた



首だけぐるりと横に向けて…視界に映ったのは長い睫に眩い金糸
こくりこくりと船を漕ぐ眠たげなゆやの表情 
睡魔と闘っているせいか、ほたるの肩に凭れて居る事に気が付いていないらしい…

「ゆや…眠たいの？」

「んぅ…」

少し身じろいだけれど返事になっていない

この日差しに加え朝早くからの家事の疲れもあってだろう
じょじょに肩に重みが増してゆく



このままでも俺は良いけどどうせなら…



くぃっ、と軽く袖を引っ張る

重力にあらがう事無く細い身体は簡単にほたるの腕に収まった


人肌が安心するのか日に温められた布が心地よいのか
起きる気配もなく、コタツで丸くなった猫の様に手足を曲げ膝上で気持ち良さ気に横になっている

脚にかかる金糸がくすぐったい

無防備にさらけ出された、まだ幼さの残る可愛らしい寝顔に自然と笑みがこぼれた
暖かな陽気に加え膝には愛しい少女の温もりと感触
…すべて独り占め

しばし柔らかな金糸を撫でながら幸せに浸っていたが
この上なく心地良い空間に、薄らいでいた眠気がふつふつと込み上げる



もうちょっと…見てたい

先程とは打って変わって、今はこの眠気が恨めしく思えた
けれどやっぱり、あらがう事は出来なくて

ゆっくりゆっくり瞼が落ちる



あ…夕方になったらゆやを起こさなきゃ



それでいっしょに洗濯物取り込んで…今度は笑顔を独り占めしよう

寝顔も大好きだけどゆやには笑った顔が一番似合うと思うから


ぼんやりと、そう考えながらいつの間にかほたるも深く瞼をとじていた






甘い甘い夢の端を掴みながら











　　
 終。


「凛々日和」のひよりさんへ贈りますー！！
１年以上お待たせしてすみませんッ！！！！そして今後もどうかよろしくお願いします（あつかましッ！）

2007.3/19