永遠とも言える永い時の中で見つけた奇跡
焦がれて 焦がれて
やっと手に入れた私だけの美しい鳥
〜It doesn't end the nightmare to you.〜
「王、あの‥起きていますか・・」
無数の星が輝く闇の下、小さな足音と共に遠慮がちなノックが室内に響いた
冷たい扉の向こうから聴こえる何時もなら暖かな声が、何処となく元気がない
「ゆや‥どうかしたかい?声色が優れないよ?」
俯いた侭顔を上げようとしない少女を抱き寄せ宥める様に優しく囁く
今宵は新月
灯籠に照らされただけの薄暗い部屋の中で、鮮やかな金と紅が眩く暗闇に映えていた
絹のような細い金糸をゆっくり撫でてやると頑なに引き結んでいた唇が漸く音を発した
「夢を‥見ました。」
消え入りそうな声が静に闇に溶ける
「‥どんな話だったのか覚えていないけれど、朧気に赤と銀色の影がちらついていて
なのに、目が覚めて嗚呼夢だったんだって分かったら…」
とてもとても悲しかった。
腕の中の少女はそう呟いて小さく震えた
「─‥そう。夢を、ね」
呟いた言葉は先程とは比べモノにならない程冷たく無機質で
肩ごしの笑みは何時の間にか消えていた
「ゆや‥顔を上げなさい。」
甘く誘うように‥
紅い瞳が妖しく光を帯び見上げた翡翠を捕らえる
触れた指先はゆやの背骨を二の腕を鎖骨を首筋を這い。そこが熱を持って、身体中を麻痺させる
「‥っ─んっ」
後頭部を強く引き寄せ噛み付くような激しいキス
息苦しさから胸元を握り締める指を無視して貪欲に貪る
「んっ…─っあ」
脳の奥が白んで、霞む
同時に、激しい痛みがゆやを襲った
頭が締め付けられる様な息苦しさに目眩がする
酸素が巧く取り込めない
「―痛ぅ…」
―まただ。
最近、何の予兆も無く唐突に
脳天が割れるような頭痛が起きる
その度に、脳裏に過ぎる映像の数々
閃光の様に速く、薄墨の様に朧気に滲み、霧の様に霞掛かってとても不鮮明な映像の寄せ集め達のどれにも
確かに映る朱と銀
私に寄り添うように包み込むように広がる二色の世界
目元が、熱い
ねえ
アナタハダレナノ
「─痛ぅ…あ…王‥頭が‥‥、痛い」
「落ち着いてゆや…ゆっくり深呼吸してごらん」
「っ私、何処か可笑しいのかな…。私の居場所は此処しかない筈なのに」
─帰りたい、なんて…願ってしまう
両腕で抱き込むように肩を抱え、戦慄く
音を立てず着実に忍び寄る陰が、静にゆやの心へ染み込んでいく
怖い…自分が怖いよ
―私は、何
「大丈夫だよゆや…。大丈夫」
王の腕と声が激しい痛みと恐怖に葛藤するゆやを止めた
何時の間に溢れたのか…涙でくゆらせた翠が助けを乞う
「君の居場所は此処だけだよ…。安心して…此処にいれば何も怖い事は無い」
「─っ本当、に?」
瞬いた瞼の衝動で淵から幾筋かの水滴が零れ落ちた
それを舌先で舐めとってそっと目尻に口付けを落とす
ず、っと途端に鉛の様な頭が軽く感じた
思考が朧気に…世界が朱よりも鮮やかな紅に塗り潰されてゆく
深紅の世界
此の一色が私の居場所
嗚呼…何て心地良い
「愛しているよゆや‥。今夜はずっと、傍に居てあげる」
だから安心して
ゆっくり ゆっくり
溺れなさい
全て忘れて楽になると良い
君は奇跡
永遠に近い褪せた時の中で、唯一光を持っていた
焦がれて 焦がれて
親を、兄弟を、かつて愛した男を殺して漸く手に入れた私だけの美しい鳥
「ああ…でも、もし、思い出してしまったら…」
その時は、甘く優しくゆっくりと‥
ばらばらに壊してあげる
壊れた君は きっと素敵に綺麗だろうね
そう呟いた男の表情は此以上無い位喜悦に歪んでいた
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終わり。て言うか終われ。
2005・5/4