雨空の後の






「痛っ!!!」

「当たりめぇだ。ったく…良くあれだけの人数に一人で向かってくな。少しは無謀だとか思えよ馬鹿。」

「ばっ!?ちょっと油断しただけよ!!あれ位何時もの事だもんっ」

「大馬鹿。」

「いっったぁ」


余りに乱暴な手付きにゆやは思いきり歯を噛み締める。痛い痛いと騒いでも不器用に動く腕は一向に止まらなかった

仕方無しに騒ぐのは諦めたものの大人しく手当てされる気も無くて‥居心地の
悪そうに顔を背ければ、子供かよと小馬鹿にした様に笑う遊庵に益々不快な気分になった


この男は何時もそうだ
どんな時も余裕に笑って自分を子供扱いして


─見てくれない











苛々する。










「おしっ。んなもんだろ!!」

ゆやの足によれよれに巻かれた包帯を見、腰に手を当てながら満足げに言う

「ほどけそう…。」

「ああっ?心配すんな。俺様の手当ては完璧だぜ。」

わしゃわしゃとゆやの金糸を撫で豪快に笑う















…─苛々する


会う程声を聞く程触れて来る程かまってくれる程、思い知らされる

背伸びしても到底届かないこの距離

私から見たら彼は大人で、彼から見たら私は全然子供なんだ







「立てるか?」

「無理‥だから先帰って。後からゆっっっくり歩いて帰るわ」

「おい‥」


何拗ねてんだと呆れた顔で溜息を一つ。けど直ぐに笑って散らばった治療具を集めている

‥拗ねて居るわけじゃ無い

二人きりで居るのが嫌なだけ…


振り向かない背をそっと横目に映してゆやは泣きそうになった

気配なんて始めから無い様な男だけどそれでも、
何時も傍に居ると感じる堂々としてそれでいて包込んでくれる様な大きな空気







それが息苦しく感じる様になったのは何時からだろう






自由人な彼は戦いの後もちょくちょく遊びに来る

皆昼間っから遊廓やら所用やらで居ない事が度々で‥やたらと二人きりになる事が多かった


今日の天気や最近の出来事‥やんちゃな兄弟やほたるさんに対する苦労話‥

たわいの無い会話であっと言う間に時間は過ぎて行く







じんわりと

それこそ自分でも気が付けない程、私の中で少しづつ変化していった想い



兄様とも仲間達とも違うこの感情が解らなくて初めはとても戸惑ってた

落ち着いて考えて、探って迷って、答えに行着いたら今度はとても悲しくなった





だって遠過ぎるもの

背も年も生き方さえも違い過ぎるわ





 

(‥人の気も知らないで…)

恨めしげに、小さく悪態をつく

ざわざわと煩く騒ぐ心を落ち着かせようと空を仰いだ


柔らかく頬を撫でる風が心地良い

遠くから響く微かな雷鳴が夏と夕立の気配を報せていた


「雨…、降るかなぁ…」

雲間に隠れた太陽を愛おしむ様に両手を空へ翳す

近い様で遠い空はやはり掴む事は不可能で…何処か彼の背中と似ている




この侭待って居れば

夕立が来てあの遠い空と私を繋げてくれるかしら



何て、センチメンタルな事を考えてしまう自分に自嘲が零れる










「‥‥‥馬鹿‥。」






















─ポツ




























吐き捨てた言葉と一緒に冷たい滴が膝上に零れ落ちた

ずっと眺めていた筈の滲んだ空は、いつの間にか暗雲を纏い泣いている


「やっべ、降って来やがった!!とっとと帰るぜ」

「え…──っ」

ひょいと、軽々ゆやを抱き抱えるとその侭地面を一蹴り

複雑に入り組んだ樹々の合間をまるで猫の如く、速度を落とす事無く軽々躱わして行く








近いよ…





密着‥と言っても大袈裟で無い、抱き抱えられた此の状況に唯困惑して居た

それでも…布越しに伝わる心音と体温は確かに。ゆやの鼓膜に、肌に、染み付いて取れ無かった。








 →後

2006・3/12



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