◆コケシ





「‥どうしたのソレ。」

散歩から帰ったほたるが目にした、木彫りの人形。

ゆやの掌に大事に大事に包まれている



「コケシですよ。買い物の途中拾ったんです。
泥塗れでぼろぼろだったけど少しは綺麗になりました!」 


ふうっと汗を拭い泥で薄汚れた手拭いを桶に入れる。
相当丁寧に磨いたのか人形は艶を帯びる程綺麗に拭かれて居た。


「…?」

次の瞬間、ほたるはゆやの行動に深く疑問を抱いた

人形を神棚の上に置くと、両の掌を合わせそっと拝む


「―なにやってんの?」

「‥拝んで居るんです。此の子が向こうで幸せになれます様にって‥。」

「此の子?ゆやその人形と知り合いなの?」


益々訳が分からずほたるは顔をしかめ首を捻る。ゆやは苦笑を零しながら、静かに佇む人形を見つめた



「‥ほたるさん‥こけしの由来、知っていますか‥?」

視線を人形に向けた侭、ふと‥口を開く

「昔、飢饉や災害で苦しむ人達が口減らしの為に村の子供を次々と殺したそうです。その時、殺した
我が子の代わりとして、木彫りの人形を作り飾ったのが始まりなんですよ。」





だから子消し



子に顔を似せて‥色とりどりの服を描いて

沈黙した第二の我が子を慈しむ



「随分身勝手な愛情だね。」



愛し望まれ此の世に生を授かっただろうに


「そうですね‥でも、大切な我が子だからこそ痩せ衰え苦しみながら死んで行く姿を見て居られ
なかったんだと思います。それが‥正しい事とは私も思えないけど。」

段々と口調が重くなるのが解る。人形に対しての慈愛の念だと思ったがそれとはまた少し違う、悲が
含まれている気がした

そう、喩えるなら遠い昔と重ねている様な



「子供を愛さない親なんて居ませんよ。」

やけにはっきりと吐かれた言葉は、何か必死に、自分に言い聞かせている様にも聞こえた
穏やかな顔をしているのにその翡翠は今にも泣き出しそうだ




―ああ‥そう言えば





(―‥ゆやの親‥)




知らない

捨て子と言う事は聞いた気がするが、親について話した事は多分一度も無い
ほたるにとっての母親は幼初期、唯一心を開いた女性であり、父親は殺しても殺し足り無い程憎い漢。只、それだけ。
とうに死んだ親を気にする事など一度も無かったし、そんなの今更だ

だから彼には親に対して執着と言うモノが余り無い


けど、ゆやは―

僅かでも記憶のある自分と違って根っこすら存在しない。何も無い



だからこそ縛られているのだろうか‥。



「あいたいの?」

「―っ?!」

華奢な背中と朧だった横顔が揺れた。

明らかに動揺する瞳に確信を持つ


「な‥何がですか‥。言っている意味が解りません‥!」

「逃げないで。」

立上がり、その場から逃げ去ろうとするゆやの腕を思わず掴む。

今逃げられたらきっと何処かで独り、泣いてしまう気がした。


「っ放して下さい!怒りますよ!!」

「やだ。」

「ほたるさんっ!!!」


必死になって怒鳴るゆやをほたるは冷静に見つめた。…出来れば、見ていたくなかった。

今自分がどれだけ苦しそうな表情をしているのか気付かないゆやを見ているのは、辛い


「―や、」

「逃げないで‥。」

軽く腕を引くともがく身体はあっさりとほたるの広い胸に崩れ落ちる。

ゆやの背中と後頭部に腕を回し、あやす様に撫で叩いた



「―っ‥!」

「‥‥逃げないで。」

ゆやが落ち着くまで、何度も何度も言い聞かせた

嗚咽は零れなかったが肩が、小刻みに震えている。それに負けじとほたるの鼓動も打ち壊れてしまう程速く脈だった。


それが伝わったのか、暫くして漸く、埋めて居た顔を上げる

何か言いたげに眉を寄せるゆやに黙って微笑を返し、淵に溜まった涙を人指し指でそっと拭った


「‥落ち着いた?」

「っ‥御免‥なさぃ‥怒って。ほたるさんは何も悪くないのに…。」

申し訳無さそうに小さく頷く。

ほたるの鼓動を聞いて楽になったのか、身体を預けた侭穏やかな‥

何処か切な気な声でゆやは呟いた


「‥微かだけど覚えているんです。兄様とは少し違う、掌の温もり。」


後から捏造された記憶かもしれないけど。


愁いを帯びた笑みでそう、呟いた


「せめて信じたいんです。ほんの一瞬でも母親だけは私を望んでくれたと。」


たとえ誰からも望まれ無くても愛され無かったとしても

生み落としてくれなかったら"私"はいない


今、此処に

"椎名ゆや"は存在しなかった


「滑稽ですよね。名前も顔も解らない人に執着するなんて‥。」

「…。」


初めて見た、ゆやの弱音。

ほたるは一瞬息を飲んだ


自嘲した言葉とは裏腹に、鉛の様な重たい鎖にがんじがらめにされたゆやが、映った


一体、親に捨てられて義理兄を殺されて、四年も独りで生き抜いた孤独感とはどれ程のモノなのだろう―?


「っ…!」

知らずに噛み締めていた下唇が紅く滲む

黙って抱き締める事しか出来ない己が、歯痒くて仕方が無かった



純粋で屈託の無い、太陽の様な笑顔の裏側には年をかけて広がり、
化膿した深い傷痕が真っ黒な血を垂らしながら今も切口を広げている

一見無垢なあの笑顔はあるいは悲鳴を上げて居たのかもしれない…。


誰にも気付かれないよう、押し殺した切ない悲鳴を―














「…俺じゃ…駄目…?」

どれ位、此の腕に捕らえていたのだろうか

ふと顔を上げると、差込んだ西日がお互いの影さえも紅く染め上げていた。


子供達が歌う童歌が子守歌の様に耳元を掠める。

それに合わせる様に、小さな肩がゆっくりと上下して居た。


ほたるの呟きは返される事無く薄暗い室内へと溶けて、消える…。

腕の中の少女は何時の間にか静かに寝息をたてて居た
先程よりも幾分か落ち着いた横顔に、少しだけ胸をなで下ろす


微かに熱く腫れぼった目尻をそっとなぞった

戦いとは無縁のしっとりとした瑞々しい肌は
武骨な指先が触れるのをためらわれる程、神秘的な美しさを醸し出して居る


抱きしめれば温もりがある

耳を澄ませば鼓動が聞こえる



"椎名ゆや"は確かにこの腕の中に在る


「俺が‥ゆやの、存在理由になるよ。」


願いにも似た決意を込めて、首筋にそっと甘美な口付け


明日になれば何事も無かったかの様に笑顔を振撒くであろう少女に

せめて心細くならない様己を刻み込んだ





今だけは


夢の中では


良い追憶を




そして何時か気が付いて


強く儚い君への爛れる程に熱く滾る想いに







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…どうしよう。

最近浮気ばっかしてたからほたゆやのほの字も書けなくなってる!!!
カマンほたゆやの神!!
好きだけど大好きだけど書けない!!話が進められない!!ヤバイ自分!!
リハビリ始めなきゃだ…汗汗

つ−か久々の表更新が此れってどうよ?(投石

す、すいません。。



2005・5/1



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