◆春一番




厳しい寒さも和らぎ、特に今日は春一番とでも喩えがたい程の暖かい陽気だ
そんな春の陽射を受けようと、いの一番に縁側を陣取り寝っ転がって居る男がいた
しかし、どうも落ち着きが無く床に頬を擦り付けながらゴロゴロと何度も寝返りをうつ

「どうしたんですかほたるさん?」


洗濯が終わり、息抜きに来たゆやが湯飲みを片手に声を掛けた

「…耳がカユイ」
「耳…ですか?」
「中がむずむずして‥何か気持ち悪い。」

顔をしかめながらそう言って又、ゴロンと床に擦り付ける
折角の居心地の良い空間を邪魔され、相当不機嫌の様だ


猫の様に寝転がるほたるにゆやは苦笑を零し、縁側に座るとぽんぽんと膝を叩く

「‥何?」
「耳掃除。しましょうか?」

にこにこと可愛らしい笑顔を向けながらこっちこっちと手招きをする
眩しいくらいの笑顔に一瞬見とれたほたるだが、美味しい申し出に直ぐさま思考を元に戻す

―幸い回りに邪魔者は居ない。居たとしても関係無いが。


「動かないで下さいよ。」

「ん。」

柔らかい膝とこめかみに添えられた指先の感触が心地良い
おまけに春一番の暖かい陽射に包まれ、先程の不快な気分が散らされた雲の様に消えて行く

時折吹く春風がゆやの髪を弄び、胡蝶の様に舞う。
その度に彼女特有の石鹸の優しい香りがほたるの鼻腔をくすぐった


































「ゆやねぇちゃん‥?!どうしたんだよソレ?!!」

「しっ〜。静かに…耳掃除していたら寝ちゃったみたいなの。」


クスクスと笑みを零しながら何時の間にか膝の上でぐっすりと眠り込んで居るほたるの髪を撫でる。どうやら
あの後、数分も経たぬうちにほたるの意識は深い深い夢の中へと旅立ったようだ。

当然ながら、サスケは面白くなさそうにソレを見ていた
その侭二人きりにするのも危険な気がして、ゆやの了承を得て隣りに座る

「呑気な奴だな。」

「ふふ…そうね。でも、こんな風に無防備に寝られると信頼されているみたいで嬉しいわ。」

そう言って指先に絡ませた髪を掻き上げる。気持ち良さげに身動ぎしたが、一向に起きる気配は無い


(信頼って言うか…思いっきりねーちゃんに好意持ってるよ…。)

口には出さず、そっと胸の中で呟いた
言った所で"有り難う"で流されて終わるに決まってる。

色恋沙汰に疎い彼女にとって"自分等"は"仲間"で、それ以上でも以下でも無いのだ。


「…どうしたのサスケ君。」

急に黙り込んだサスケに、ゆやの表情が曇る
慌てて何でもないと取繕うが、顔を上げるとゆやの膝の上にいるほたるが視界に入ってしまう為俯くしかない
大人気ないと思ってもあんな状況羨まし過ぎて嫉妬心しか湧かない

「サスケ君?」

そんな心情など気付く筈も無く、ゆやは心配そうにサスケの額に掌を伸ばした

「っ!」

驚いて身を引く事も忘れ、一瞬でその暖かな温もりに捕らえられる。
急に夏が来たかの様に、体中の血が逆立った


「気分悪いの?」

「―え?」

自分の額に手を置きながら実に鈍感な彼女らしい、見当違いな心配をする。…逆に気不味い雰囲気に
ならずに済み安堵したが


「な、何でも無い。全然大丈夫!」

「―そう?」

「つーか、姉ちゃんこそ大丈夫かよ…春先っつったって夕方は寒いだろ?!」

一体何時まで膝を貸していたのか。気が付けばもう日も陰り欠けている


「…少しね。でもほたるさん暖かいし…。」

くすくすと微笑を零し眉を潜めながら柔らかく笑った


(姉ちゃんも人が良いな。)

そこが良い所だけど…。

兎に角、これ以上薄着の侭ゆやを外に出して置くなんて事は出来ない。
さっさと膝の上のボケ猫を追い出すべくサスケは行動を起こした


「…そういや姉ちゃん。さっき鬼眼の狂が姉ちゃんの部屋に入ってったけどヤバいんじゃない?」


さも今思い出したかの様な口調。勿論嘘だが効果は絶大だ。ゆやの顔がみるみる青冷めて行く

「え…!た、大変!あたしのお財布!!」

「直ぐ確かめた方が良いよ。」

「うん!あ‥でも‥。」

「此だけ爆睡してりゃ大丈夫だろ。」


ちらりと横目で視線を送る。寝て居る筈の肩がぴくりと反応した


「‥じゃあ。ちょっと行って来るね!」

手近に在った洗濯物を枕替わりに置くとそっと部屋を後にした。ぱたぱたと軽やかな足取りが遠ざかっていく



























「で、何時までそうやってんだ?」

「‥。」

ゆやの足音が完全に消えた途端、それまで爆睡していた男ががばりと起き上がった
寝癖で髪をぼさぼさにしながら邪魔しないでよと不機嫌を露わに、居無くなった温もりを惜しむ。
一発触発‥そんな空気が漂い始めたが以外にもほたるはあっさりと折れた
余計な一言を残して


「でもまぁいいや‥。」

「‥?」

「柔らかくて気持ち良かったし‥。ゆや良い匂いするよね。」

「ってめ!」

「俺の事暖かいって言ってたけどゆやも抱いて寝たら十分暖かい気がする。抱き心地良さそうだし。」

「〜っゆや姉ちゃんを変な眼で見んな!!!」

がっとけんだまがほたるの顔面にクリーンヒット
痛いと連呼するほたるを無視し、問答無用で雷を落とす。ほたるもそれを返そうと刀を抜き炎を放った。


その後、ゆやが戻って来るまで縁側には炎と雷が吹き荒れて居たとか。





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微妙に未完成(汗)
サスケ、可愛そう…。



2004・3/26



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