初霜




「寒…」


白い吐息を吐きながら冷たい廊下を歩く

ぱたぱと廊下を掛ける可愛らしい足音に耳を澄ませながら目当ての少女の元へと向かった
何時も早起きな彼女だが今日はまた一段と早い気がする。こんなに寒い朝なのだからもう少し寝ていても良いのではないかと思う。
かくゆう己は生まれ持った能力で好きなだけ暖をとる事は出来るが折角ならば少女の温もりで暖まりたかった



「あ‥」



足音が消えた


忙しく無くなったのだろうかと思い気配のする方へと向ってみる


「此処かな…」

行き着いて見ればそこは勝手口。気配はさらにその先に続いて居る



…蔵



引き戸を開けてすぐ庭先に佇む荘厳な蔵が目に止まった。そして地面には点々と小さな足跡が雪に掻き消されそうに
なりながらも残って居る


「何してるんだろ‥」


興味を惹かれその足跡を辿ってみた

ひょいと蔵を覗き込んで、背を向けて居る少女に声をかけた


「何してるの?」

「ひゃ!‥ほたるさん!」

驚いて振り返った少女はいつもと何処か違う


「…着物」


何時もの丈の短いモノでは無く足首迄伸びたモノだ。色も朱色に白地の柊の刺繍が施してある

「宿のかたが古着で良かったらって貸して下さったんです。折角の新年ですしね。」

頬を赤らめながら嬉しそうにくるりと着物を翻す。其れにつられさらさらと長い金糸が宙に舞い、肩へ落ちた
恥ずかしそうにはにかむ姿に赤い着物がとても良く似合って可愛らしい…と言うか色っぽい。
今は髪を下ろしているがもしも上に結い上げたりしたらそこから見える白いうなじはさぞ清端で瑞々しく、妖艶的だっただろう

本能に傾き掛けた彼の頭の中では現在、ゆやが聞いたら赤面してしまう様な思考が巡っていた
そんな彼の心中に気付く筈も無いゆやはふと思い付いた様に顔を輝かせながらほたるに尋ねた

「そうだ、ほたるさんも一緒に初詣しません?」

「初詣?」

「はい。さっき偶然見つけたんですけど‥」

意味深な笑みを浮かべ、視線を蔵の奥へ向けた。ほたるも其れを追う


「何だか解りますか?」

「…仏像」

「毘沙門様です」

薄暗い蔵の奥に身の丈10尺程の毘沙門天が安置してあった。ホコリを被って居ないと言う事はそれなりに
重宝され奉られて居るらしい…

「毘沙門様は知恵と戦いの神様でもあるんですよ。ほたるさん達にはぴったりですね」

くすくすと微笑を漏らし視線をほたるに戻した


「もう御願いしたの?」

「はい。ばっちり!…皆が酷い怪我しません様にと、射撃の腕前が上がります様に…あと…」

「あと?」

「内緒です。戦いの神様じゃ意味無いですし。」

口元に人差し指を置き、照れながら笑う

「さ、ほたるさんも御願いしましょう!」

「…うん」

頷くも、ほたるとしては信仰心など微塵も持ち合わせて居なく、むしろゆやのもう一つの願い事と、素直な本能と僅か
な理性との葛藤でいっぱいだった

すでに仏像は視界からぼやけてさえいる

(人に頼み込んで強くして下さいなんて言うの何か嫌だし。戦いの神様だったらゆやの事頼んだって無駄だろうし…)

むしろ神頼みなんてしないで目の前にいる少女に今直ぐ叶えて貰った方が手っ取り早い気がする




「…」




―ぎりぎりの理性は呆気なく本能に敗北した様だ


「ねえ…」

自分の後ろ姿を見つめて居たゆやに視線を向け、おいでと手招きをした。鈍感な彼女は当然、嬉しそうに
無防備な笑顔で擦り寄って来る



すかさずその体を捕らえ、抱き締め、熱い口付けを捧げた


「―ん」

半開きの唇に舌先を差し入れ口内をまさぐる。初めは体をこわ張らせていたゆやだが段々と肩の力が抜けて行き不器用に
舌を絡めながら素直にその身を預けた
何度交わしても変わらない、此の初々しさがほたるは好きだった
片腕で軽く体を支えながらもう片方の腕を着物の合わせ目に伸ばす。ゆやはそれに驚きと抗議の声を上げた

「ほたるさ…!やっ、‥す、するなら場所変えて!!」

「此処が良い」

「―っ!」

最近気付いたがゆやはかなり感度が良いらしい‥
耳朶を軽く甘噛みするだけで肩が震え小さく悲鳴を零した。それがまた可愛らしくそそられる


「どうせなら見せつけようよ、カミサマに‥」


脱力した一瞬のスキに帯を解いた
それは重力に逆らう事なく布切れの音と共に落ちる




数刻も経たぬ間に狭い蔵の中は熱気と快楽に塗れて行った



















「…ほたるさんのばか」










あれから約一刻


体力も精神力も使い果たし二人はくったりとして重なり在っていた
一番疲れたのはやはりゆやで、肩で息をしながら恨めしげにほたるを見つめている

「ごめん激しかった?」

対しほたるは謝るがその声は大満足と称えられる程晴れやかだ
そっぽを向いて拗ねる幼子の様な少女に可笑しさが込み上げつつ、けれど其の声は真剣に名を呼んだ


「…ねぇゆや」

「何ですか?」


「今年も宜しく。‥来年も再来年もずっと―」


ゆやにだけ見せる穏やかな笑みに加え、そんな台詞を囁かれてしまえば怒る気も失せてしまう


「ほたるさんて…ずるいです」

「そう?」

悪戯っぽく笑うとそれにつられゆやも苦笑を零した
温もりを求めてほたるの広い胸元に擦り寄る

「ほたるさん」

「ん?」


「…今年も来年も再来年もずっとずっと‥宜しくお願いします」







 終



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明けました。とっくの当に明けておりました。
めちゃくちゃ遅くなってしまい本当に申し訳ありません。。。(え?誰も待ってない?)(黙認)(…)
ちなみにゆやたんの御願い事はご想像にお任せします。まぁ、うん。ほたに関する事のつもりですが…。

一様フリ―で配布しております。期間は〜1/23位で。(適当)

皆様、良いお年を!!






2005・1/16



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