蜜に引き付けられる蝶の様な
灯に誘われる羽虫の様な

そんな不思議な引力で引き寄せられている気分

儚げな笑顔は灯
零れ落ちる声は蜜


唯それらと違うのは
欲するが故に手に入れてしまうのが怖い事

 
 //癒えない傷//


満月の夜
みな遊郭やその付き添いで出払ってしまい残ったのは興味の無かったほたる、そしてゆやのみ

二人きりだからと言っても部屋は別々。ゆやもとっくに床へ着いた、はずだった

一人でぼぉっと月を眺めて居るとぎしぎしと床の軋む音が聞こえる
其れはだんだんと近くなり、遂には自分の部屋の前で止まった
ほたるはそっと刀に手を掛けるが、外から聞こえた声の主は意外な人物だった

「ほたるさん…起きてますか?」

そぅっと扉を開けて遠慮がちにゆやが顔を出した
とうに寝た筈の少女の出現にほたるは僅かばかり動揺した

「‥そっち行っても良いですか…」
「うん‥」

こんな時間に男の部屋を訪ねていると言うのに、此の少女にはまるで危機感が無い
ほたるがおいでと手招きすれば疑いもせず嬉しそうに傍にやって来た

「…寝れないの?」

ほたるの問いにゆやは小さく頷いた

「満月はちょっと苦手で。それに‥何だか静かすぎて…」

そう言って向けられた笑顔はとても儚くて何となく哀しげに映った
ゆやに昔何が在ったのか前にアキラから少しだけ聞いた事があった
その時からだろうか自分と同じ孤独を生きていた此の少女に興味を持ち始めたのは

孤独だった筈なのに何故こんなにも凛とした瞳をしているのか…其れがどうしても
ほたるには解らなかった。

そしてどうし様も無くその瞳に惹かれている事もまた、不思議で仕方が無かった

「…ほたるさん?」

無言で見つめているほたるに気まずさを感じ、ゆやは首を傾げた
何か話そうかと口を開いた瞬間、ほたるの掌がゆやの顎を捕らえ視線が絡み合った
驚いて頬を真っ赤に染める

「ゆやの眼…綺麗だね。」

「―へ」


唐突な言葉にほたるが何を意図しているのかゆやにはさっぱり解らなかった
大きな鳶色の瞳を更に大きく見開いてほたるを見つめる。

「え、あ、あの‥」

吐息も掛かる程の距離な上、綺麗と普段言われ慣れない言葉を連発され、ゆやはあたふたと動揺した
それでも金色に輝く瞳に食入る様に見つめられ、射抜かれた様に動け無くなる

「ゆやは…狂達と逢う前はずっと独りだったんでしょ」

「―っ」

ゆやの肩が微かに震えた

「俺もそうだった。だから解んないんだよね‥」


相変わらず顔は無表情な侭…だか顎を捕らえていない方の手は、僅かに畳に爪痕を付けている


知りたい……知りたくない
少女と自分は相容れないものだと感じてしまう気がしたから


「…どうしてゆやの眼は汚れ無いのかな。」

ガリッと畳が音を立てる。毟られた藁が爪の間に刺さり、血が滲んだ
玉となって伝うそれは自分の過去を映し出している様で
いっそ少女もこんな風に目茶苦茶に汚してしまいたかった


血で染まった自分には眩し過ぎる



全ての言葉を吐いた後ほたるは顎を解放し、視線を逸らした

(…嫌われたかな)

言い知れない痛みが胸元を締付けた


「―っ」

静寂が辺りを包もうとした時、畳を掻き掴む掌に暖かな温もりが触れた

「ゆや?」
「…ほたるさん…私の事買被り過ぎですよ」

柔らかな声
華奢な腕から伝わる確かな脈拍

そうっと振向くとゆやの視線は窓の外に向けられていた。その先にある爛々と輝く満月

「私が笑っていられるのも‥満月の夜に泣かないで居られるのも…全てほたるさん達のお蔭です。」
「‥俺等の?」

ほたるの言葉にゆやは優しく微笑んだ

「皆に逢えたから、私は笑う”事を思い出せたんです。それに…ほたるさんの眼、
前よりずっと優しくて大好きです。知ってますか?人は傷付いた分、他人に優しくなれるんですよ…」


重なる掌に体温が伝わる
真直ぐな偽りのない言葉

「汚れているのなら少しづつ、一緒綺麗にして行きましょう。
ほたるさんはもう独りじゃないんですから。」


心の片隅で色々な靄が泡となって消えて行った
何故こんなにも少女に惹かれているのか、漸く解った気がした

少女も自分と同じ、未だ癒えない傷を持っているんだ…
ただ気付かれないように奥に奥に隠しているだけ


そして少女にとっての傷薬は他でもない、仲間の傍で笑って居られる事


「‥ありがと」

ほんの少し眼を細め、口元には緩やかな弧をつくる
其れを笑顔”と呼ぶにはまだ、不器用なもの…だが心の底からほたるは幸せだった


「やっぱり…綺麗。」

「え‥何か言いましたか?」



呟かれた言葉にきょとんとして瞳を瞬くゆやをほたるは愛おしそうに見つめていた



爪の間から滲んだ血は何時しか止まり、そっと…慈しむ様な小さな掌へと包まれていった




END
_________
長っ!…くないですか?この位がちょうどいいでしょうか…。
ゆやたんの眼は綺麗だ-と言う事を書きたくて‥最近本誌で二人揃って登場する事が無くなっているのでついに妄想が爆破しました。
オマケも考えています…てゆ-かそこまで書いたらさらに長くなってしまうので分ける事に‥。

2004・8/21



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送