幸せ

ふわりふわりと彷徨いこんで来た夜中の訪問者。
自由に飛び回るその様は、あの人ととてもよく似ていた。


「あ…。」

ふっと暗闇に小さな光が横切った。手速く灯籠の灯を消すと、手を伸ばしその光を招き寄せた。

「蛍…」

誘われる様に部屋の中へと入り込む光にうっとりと見とれる。
上に下に、ふわふわと飛び回っては月明りに照らされたゆやの金色髪に止まり、暫く経つと又ふわふわと飛び回る。

「綺麗…」

ゆやは其の光を飽きる事なく見つめていた



「…ゆや?」

ゆやの部屋に灯が無い事が気になりほたるが顔を覗かせる。
よくよく目を凝して見ると窓辺に寄り掛かるゆやの姿が目に入る。その傍らには瞬きながら光を放つ小さな蛍…

静かに歩みよるとふわりと外へと飛び去って行った
「…寝てるの?」

耳を澄ますと微かにすやすやと穏やかな寝息が聞こえる。
幸せそうに眠る横顔に自然と笑みが零れた。


「ん…ほたる…さ…」

突発的に呼ばれた名に心臓が大きく脈だった

「ゆや?」

起きたのだろうかとそっと覗き込むが、その表情は相変わらず穏やかな寝息をたてるだけ。

「蛍…綺麗です…ね…」

にっこりと語りかける様な笑顔にほたるの理性がぐらりと音をたてる。
ゆやがそれ以上話す事は無く、ほたるの理性は寸での所で踏み止どまった。それでも、自分がゆやの夢の中にいる事が無性に嬉しくて仕方が無い。

溢れる気持ちを押さえる為に起こさない様にそっと首筋に口付けた。

「今度は夢の中じゃ無くて、本当に二人だけで蛍見ようね。」

この痣が消えるまでには…


軒に吊された風鈴が夏の終わりを惜しむかの様にちりんと夜風に揺れていた…。 

―fin



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