暖かい所
「あれ…また寝ちゃったのかな?」
ふっと目を覚まし、辺りを見回した。枯れ葉が舞散る林の中…、
何故自分がこんな所で寝ているのだろうと首を傾げる。
「…俺、確か狂と戦って負けて…。」
目の前に聳えていた筈の第一の門。しかしそれは陰も形も無い。
「…。」
ゆっくりと立ち上がり、前を見据えた。
辺りに気配はなく、音一つしない…。
無数に立ち並ぶ枯れ木さえも生きているのかわからない程だった。
「変な所…。」
見慣れぬ所に居ても落ち着いていられるのは彼の性分だろう。
無言のまま歩き出す。
道などわからなかったが直感的に゛何か゛を感じた。
周りにある木々は相変わらず無数に連なり、景色の変わることは無い。
自分が進んでいるのかさえわからなくなって来た。
「あれ…?」
大分歩いただろうと思えた時、木々の間から微かに色の違うものが見えた。
しかもソレは心無しかこちらに近づいて来る気もする。
「…沼…?」
数歩歩いた所ですぐにその場所にたどり着いた。
沼…の様などす黒いソレは、向こう岸が見えない程延々と果てし無く続き、じわじわと林の中を浸食していく。
ずき…
胸の奥で小さな痛みが走る。
何も無い世界…。
まるで昔の自分を映し出している様な…
そう思った瞬間体が石のように動けなくなった。
ゆっくりと自分をとりまって行くソレに抗う事も出来ずに完全に自身を飲み込まれてしまった。
「誰もいない…。そっか、またヒトリなんだ。」
この空っぽの世界が自分の居場所。
胸が締め付けられるような痛みにゆっくりと瞼を閉じれば無限の暗闇が広がっていた。
「…さん、ほたるさん。寝ちゃってますか?」
「……。」
遠くから自分を呼ぶ声に閉じていた瞼を開く。
「あ、起きた。」
「…あれ…?」
目映い光に眼を細めながら見ると目の前に居たのは何故か狂と旅をしているという女…。
「傷の手当しますね、…て、ほたるさん。」
無意識に伸ばした手が、気がつけばゆやを包み込むように抱きしめていた。
「ど、どうしたんですか。」
慌てて離れようとするが、華奢な腕は少しも力を緩めようとしない。
「…あんたは…此処にいる?」
「え?」
ほたるの問いに惑った声を出す。
「どっか居なくなったりしない…?」
「…ほたるさん。」
そうだ、この人は…
「当然です。」
抱き締めているため顔は見えなかったが、恐らく微笑んでいるのだろう。
透き通った声には何の飾りもない。
″何でこんなに安心するんだろ…。″
「ん…ありがと。……もすこしこのままで良い?」
「…はい。」
照れながら小さくうなずくゆやに微かに口元を歪めて、ほたるは再び瞼を閉じた。
其処には一点の闇もない。
布越しに伝わる体温と鼓動が、何故か心地よく感じた。
_fin_
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ほたゆやシリアス→ラブラブ。
設定は第一の門で戦いが終った辺りです。ほたるがゆやたんに恋した瞬間!(本人自覚なし)
考えてみればラブラブ(?)書いたこと無かったです。書いてるとこっちが恥ずかしくなるもので…。
孤独だった頃のほたるの心を書いてみようとしたらこうなりました。つ-か背景暗!!
ほんとはゆやバ−ジョンを考えていたのに…。なんでいつも目的と変わってしまうんだろう。
裏設定でこの後ほたるんはそのまま寝てしまい、みんなからリンチを喰らいました。