問いかけ



どの位走ったのか判らない…。

ただひたすらに出口を目指してさまよう。



『5分待ってやるから俺から逃げきってみろよ。』



あの男の言葉が頭の中で木霊する。



「あっ!」



床の僅かな段差に気がつかず、つまづく。


「つ…。」


ぶつかる…そう思った瞬間目の前に誰かが立ちふさがった。


「…大丈夫ですか?」


「!?」

つまづいた所を支えられたので自然に抱きつく形になる。慌てて離れて三連銃を向けた。

「あ、あなたは誰?」


黒いコートに落ち着いた雰囲気。

ただの一般献族では無い事は一目でわかった。


「…出口を探しているのですか?」


銃を突きつけられている事にまったく動じていない。

ゆやはゆっくり間合いを開けながら此の状況をどう切り抜けようか思案する。

その様子に気づいてか男は安心させるように優しく笑った。

大丈夫ですよ。私はあなたに何かする気はありません。


憂いを帯びた瞳で優しく語り掛ける。


「…。」


ゆやは警戒しつつ銃をおろした。

その事に満足してか、男はうっすらと笑みを浮かべると丁寧な口調で問いかけてきた…。


「…名前は?」


「えっ…し…椎名ゆや…。」

名を聞かれたことに驚いたが素直に答えた

「椎名…。ああ、あの鬼の子の仲間ですね?」


「それは…。」

ここで素性を述べていいかと少し迷った。しかし下手な嘘はつけないと思い軽く頷く。

「…そうですか。こちらの道を進むと鬼の子達と反対の方向に進む事になりますよ?」


「…え。」

「ついてきてください。近くまで案内しましょう。」

「え、ちょっ。」

すっと向きを返るとスタスタと歩き始めた


「…どうしよう。」


壬生の人間を信じて良いものかとしばし戸惑った。

『ついてきてください…。』

でも…

あの人の眼は嘘をついているとは思えなかった…。


ぐっと拳を握ると距離を取りながら男の後をついていった。




「…。」



沈黙の中、黙々と歩く。
別に何か話さなくてはいけない訳でも無いが、壬生の地のど真ん中で壬生の人間と二人きりと
いうのは不安と恐怖心以外なにも無い。
それに先刻の男に会ってしまわないかと警戒を解く暇もなかった。

そんな状況はゆやにとって想像を絶する程の緊張感だ。

自然と頬に汗が伝う


「大丈夫ですか…?」


不意に声を掛けられ我に帰ってみれば、すぐ眼の前に前を歩いていた筈の男が居る。

「つ…。」


危害を加えるつもりは無いと言われてもやはり警戒してしまう。


「少し…話でもした方が気が紛れますかね。」


「…え?」

予想もしていなかった意外な言葉。
自分の気持ちにに気が付いての配慮だとすぐにわかった。


「あ、あの……!」


ゆやが口を開きかけた時、一瞬男の表情が険しくなった…。


ゆっくりと後ろを振り返り、薄暗い廊下の先を見つめている。

「…。」


そして再びゆやの方へ体を向けるとスッと前方を指差した

「私が案内できるのは此処までの様ですね。」


「え…。」

「此処を真っ直ぐ進めば鬼の子達の所へ辿り着ける筈です。さ、早く行きなさい…。」


トンッと背中を押され前へよろける。


「あ…。」


慌てて体制を立て直し、男を見つめた。

優しそう…けれど何処か寂しそうな漆黒の瞳…。


「あ…ありがとう…。」


消え入りそうな程小さな声。…だが男の耳にはしっかりと届いていた。
フッと笑みを浮かべて前に向かって走り出す少女を見送った。



真っ直ぐ



真っ直ぐ


鬼の子のもとへと






「…何か用ですか?」

姿が見えなくなったことを確認すると、背後から感じる殺気に気配を向ける。


「俺様の遊びを邪魔する気か?ひしぎ…。」

「…何の事ですか…。」


暗闇から現れた短髪の男に驚く事も無く答える。


「は、まぁ良いさ。どうせ奴等の方から此処へ来る。楽しみはその時まで取って置くか。」

くくくと笑いながら手に持っていた竹とんぼを弄ぶ。


「…。」

少女の消えた方向を見つめながら、再び彼女が此処に来ない事を祈った。


「…次に逢った時、私はあなたを殺す事が出来るでしょうか…。」



問いかけにも似た男の言葉が暗闇の中へと響いていった…。


             _fin_




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………。暗いです。初めはひしぎとゆやのほのぼのを目指して描いていたのに、そんなもん欠片も在りませんね。

おまけに又長い。いい加減精進しろよと自分に言いたいです。
短髪の男はわかると思いますが遊庵です。
ゆやに何し様としたんでしょうかねえあの男は…(聞くな




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