秘密兵器 





「あれ、なんだろ、これ。」

 首をかしげながら、ゆやは地面に落ちていた「何か」を拾い上げた。どうやら竹で作られたもののようである。

 わずかに歪んでいる板状の竹に、竹串のようなものがついている。どうやって使うものなのか、と考え込んだゆやは、はっと
 して顔を上げた。

(まさか…これは壬生の新兵器?)

 何しろ江戸でも見たことがないのだ。先ほどまでアキラさんが戦っていたというクビラの武器なのかもしれなかった。アンテラとい

う可能性もあるが、彼女の武器が巨大鉄球であることは知っている。あの力で、こんな小さなものを使う必要もないだろう。
 と、そこまで考えたところで、しまった、と胸中で舌打ちをする。

(下手に触れないほうが良かったかもしれない。いきなり変なのとか出て来たら…どうしよう…)

 単に人を殴るときに使うのであればいいが、メキラのように石化光線を発するかもしれない。使用法を誤れば、連れや自分も危

ない。

 思わず顔を青ざめさせる。自然と、「何か」を持った手が震えた。

 と、唐突に背後から声をかけられた。

「…アンタ、なにやってんの?」

「ひゃっ」

 小さく声を上げて振り返れば、そこにはほたるがいた。

「あ、ほたるさん…驚かさないで下さいよぉ」

「え…あ…ごめん。」

 何がいけなかったのだろうかと不思議に思いながらも、謝る。その目に、ゆやが手にしたものが映った。

「あ、それ。」

「ほたるさん、これ、知ってるんですか!?」

「うん。毛虫つんつんしたやつ。」

 停止。

 何かが停止。

「…え」

「よかったらあげるよ。」

「……」

「うーん。そういえば、どうやって使うんだっけ。」

 と、ほたるは固まっているゆやの手から、「何か」をとると、使い方を思い出そうと試行錯誤した。竹串のようなところを摘んでみた

り、引っ張ってみたり。だが、なかなか思い出せないまま、困ったようにゆやを見た。

「…どうやるんだっけ。やっぱり、つんつんすればいいのかな。」

 いうやいなや、ほたるはゆやへと向き合い、竹串の部分を突き出した。

「…へ、き、きゃあっ」

 何の前触れもなく、胸をつつかれたゆやが叫び声を上げる。

「あ、面白い…かも。」

 再度、つついてみようと、ほたるが微かに目を輝かせる。しかし、不意にアキラが二人の間に飛び込んできた。

「あなたは何をやっているんですか!ゆやさんが嫌がっているでしょう!」

「…い、いえっ大丈夫ですから。」

「ゆやさん、こういうときはハッキリと言ったほうがいいですよ!」

 憤慨したアキラを見て、逆にゆやは冷静さを取り戻したようだった。そのまま刀の柄を掴もうとしていたアキラの手を、そっと止め

ると、心配ないというように微笑んだ。その笑み、声色、指先の感触。一人の男を悩殺するには十分すぎる。

「本当に、大したことではありませんから。」

 思わず顔を真っ赤にしてしまうと、ほたるが呟いた。

「アキラ、役得。」

「な、ななななにを」

「じゃあ、アキラにこれあげる。これでつつくと、面白いよ。」

 と、「何か」を差し出す。ゆやは、さすがに頬を膨らませて、もう、と口を尖らせた。アキラはというと、

「…つつくとは、何てことをっ」

 大声で叫んだはいいが、瞬間、さらに頬を紅潮させた。

(つつく…一体どこを…ま、まさか!)

 顔が、体が熱くなる。ついには、鼻血が伝い始めた。慌ててゆやとほたるから隠れるようにして、顔を背ける。手では押さえきれず

に、ぽたぽたと血が滴る。

「あの、アキラさ…ん?」

「な、ななななんでもありませんっっ」

 アキラは顔を伏せたまま、風のようにして駆けていった。あとには砂塵が舞う。

 わけが分からないまま、二人はぽつんと取り残されていた。

「竹とんぼ…いらないんだ。」

 ほたるは、「何か」──竹とんぼを握りしめたまま、呟く。

「へぇ、それ竹とんぼっていうんですか。かわいい名前なんですね。」

「ゆやちゃん、ほたる、急ぐよ!」

 遠くから灯が呼んでくる。

「あ、急がないと。いきましょうか。」

「そうだね。」

 結局、竹とんぼが何なのか分からないまま、二人は皆に遅れないように先を急いだ。

 とはいえ、多少遅れても道を間違えることはないだろう。

 道には、アキラによる血痕が点々とつづいているのだから。





<終> 




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朔花様様より、お一つ好きな小説が頂けるとの許しを頂いたため、「秘密兵器」を頂きました−。
ほたゆや…アキゆやほた‥(ゲフゲフ)(吐血)お花畑を一周してきました。
ホンとにコレでもう朔花様の作品を読めるのが最後なんですね‥。
有難う御座います朔花様!大事に大事に大事にします!!!


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